154人が本棚に入れています
本棚に追加
驚き過ぎて、失礼ながら思わず部長に聞き返してしまった。
「えっ?! 営業・・・営業としてって、今おっしゃいましたか? えっ?! 営業って・・・私、この3年間ずっと事務で、その前は学生で・・・営業はしたこともないんですが・・・」
全身で戸惑いを表現する私に、優しく笑いながら部長は言った。
「私は、高田さんを面接から見てきたわ。
初めて現場面接で会ったあなたは、改築中の現場を見ながら、元のオーナー様の思い出への思いや、オーナー様がそこから居なくなってからの、周囲の人への配慮を、一生懸命語ってくれた。
社長が、この事業をやろうと思われた、原点はまさにそこなの。」
少し遠くを見ながら、懐かしむ様に話す部長。
手元にある、煮物に一口口を付け、部長は話を続けた
。
「あの時から、私は高田さんを営業として採用したいと言ってきたの。
でも、当時の部長には理解して貰えなくて・・・それでも絶対にあなたを自分の後輩として迎えたかった私は、必死に結果を残したわ。
女性営業を認めさせれば、あなたを営業に出来ると思ってね。」
入社前から部長が自分を気にして下さっていたことに驚くばかりの私。
「そんなに驚くことじゃないわ、営業の子たちも、高田さんが来てくれてから随分仕事がし易くなったって聞いてるわよ。」
お酒の進んだ部長は、どんどん饒舌になった。
営業資料にも使えるし、元オーナー様へのフォローにもなるから・・・と、私は改築現場と、完成したホームの写真を撮影し、元のオーナー様へ元の建物の面影がよく解る写真と、直筆のお手紙を送っていた。
「3ヶ月前、ホームが完成した、ほら、大きな日本家屋に住んでらして、ご親族の売買のお薦めをずっと断ってらした、木下様。高田さんからのお手紙を凄く喜ばれてね、先日、本部にお礼状が届いたそうよ。
今日、社長が会議の場で私を誉めて下さったわ。私を認めてない、他支店のオヤジ部長二人の顔が面白くて!
ありがとう、高田さん、あなたのお陰よ。」
そう笑った部長は、嬉しそうにお猪口の日本酒を飲み干した。
最初のコメントを投稿しよう!