第一章

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…その手紙が母に届くことはなかった。手紙配達員にとって、それは手紙ではなく金。まともに届け先の住所も書かれておらず、小さく文字が書かれているだけのお札。 配達員は懐にその金を入れ、何食わぬ顔をして仕事へ戻った。 ……いつまでも返事がこないことに心配した少年は、さらにその紙に手紙を書いて出した。何度も何度も、ポストの場所を変えて出した。すべて取られていることなど知らずに……。 数百年、数千年経ったある年、彼の手紙が世間で大きく公表された。お札に書かれた慎ましい日々、母への感謝、悲しみの欠片。彼の思いが詰め込まれた手紙が何千枚も、至る所から発見された。お札の手紙を読んだ人々はみな手紙の優しさに感動し、欲しがった。 その手紙には元の値の数十倍の値段が付けられた。 少年はこの世で一番の富豪となった。立派な墓と名誉を手にすることになった。 二度も大金を手にした少年。 しかし、どちらもその事を知る事は出来なかった。
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