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言われてまた前のウィンドウを見ると、そこには赤い球体が映っていた。
「うわ……綺麗……」
火星だった。左右の両端に白いものが見えている。極冠なのだろう。ということは、今は太陽に対して垂直になって飛んでいることになる。
ぐんぐんとその姿が近づいてきた。赤茶けた色が徐々に薄まっていき、オレンジ色をした大地が見えてくる。大小様々な山がそびえ立っており、それはただただ圧巻としか言いようのない光景だった。
あの広い球体のどこかにアメリカが放った探査機のキュリオシティがいるのかと思うと、とたんに宇宙へ来てしまったのだという実感が湧き上がってきた。
ウィンドウに映る火星が小さくなっていった時には、それは感動へと変わっており、遠のいていく不毛の惑星が何故か愛おしく感じられていた。
「お、おい! 操縦に集中しろと言われたばかりだろう! このあたりは小惑星が多いのだ!」
その声にはっとして芽衣が前を見る。目の前に迫ってきた隕石に驚いて左へ避けた。すると、次はそれよりも遥かに大きな小惑星が見える。まるで不格好なジャガイモのようだ。頭を切り替えて、巧みに小惑星を避けていく。
それから一番大きな小惑星を超えたあたりで視界が晴れ、窓の外に一面の星空が浮かび上がった。
今度は操縦桿をしっかり握りながら、その光景を目に焼き付けていた。
「んで、も一回聞くけど……あんたは何者なの?」
同じくウィンドウの外に広がる銀河系の景色を眺めていたリオガを横目に聞く。
「あんたとは失礼な。リオガ様と呼ぶのだ」
「はいはい。リオガって言うのね」
すると、当のリオガが首を横に振る。
「ちょっと発音が違います。正しくはリオガ=ビアガ。言ってみてくださいませ」
「リオガ、ビアガ」
「違いますわ。もうちょっと高音で、少し谷間を覗かせる感じの抑揚で――」
「んな細かいこと言われたって伝わらないわよ。ねえ、リオガ。もう教えてくれてもいいでしょ? あたしはあんたを助けたことになるわけなんだし。いったい何が起きてて、あたしにどうしろって言うわけ?」
「知りたいですの?」
「当たり前でしょ。突然銃を突きつけられて、こんな飛行機を操縦させられて」
「こんなとは失礼な!」
船内に響く必死な声に、芽衣がくすっと笑った。
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