3人が本棚に入れています
本棚に追加
三つ当てはまるあたしは、ビッグバンレベルのミラクルが起きないと無理か。芽衣はため息をつく。
「ここで諦めるような人たちだったら、このセミナーには来ていませんよね? 今日は婚活していくための『女子力』について、自分に足りないところをしっかりと学んで帰っていただければと思います。それでは……」
前々から友人たちに指摘されていたし、芽衣も自分自身でうっすらと分かっているつもりだった。しかし、一時間の体験版セミナーを終えた芽衣は、はっきりと認識したのだ。
――あたしには女子力が圧倒的に足りていない、と。
九時を過ぎた山手線に乗りながら、周りの目を少し気にしつつバッグからテキストを取り出して、女子力アップのヒント七ヶ条として講師が紹介していた言葉をもう一度読み返した。
一、良い友人を持て。
二、見かけは現代、心は大和撫子たれ。
三、自分の年齢に合った美しさを身につけよ。
四、物欲に囚われるな。
五、無駄を省かず味わえ。
六、明日はあると思うな。
七、女は度胸。
女子力は婚活だけに使えるツールではない。人生の困難を乗り越え、新しい自分という道を切り開いてくれるスキルなのだ。講師はセミナーの最後をそう言って締めくくっていた。
「はーあ……」
またげんなりしてくる。
クリアできているのは、こうして駄目な自分の再発見につながるセミナーを紹介してくれた、いい親友を持っていることぐらい。
現代の女性らしい身なりをしているつもりだけど、大和撫子みたいな奥ゆかしい精神では、多数の顧客とやりあうシステムエンジニアは務まらないのだ。
物欲なんて囚われているどころかまみれすぎて部屋が大変なことになっているし、低賃金のこの時代に無駄を味わうほどの時間なんてありはしない。
今日を精一杯生きているけど、明日は来るものだからついつい後回しにすることが多いし、日々精進なんてしていたら結婚する前に心が壊れて病んでしまう。
セミナーで胸の奥をぐいぐいとえぐられたのをまた思い出して、何度もため息をつく。他の参加者たちも帰り際に暗い顔をしていたところを見ると、同じ気持ちになっていたのだろうか。
――あたしには耐えられない。
気づいたら、芽衣は秋葉原駅で下車していた。このストレスを解消するにはアレしかないと、体が判断したのだ。
最初のコメントを投稿しよう!