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「何だ今の避けかた! 神避けじゃねえか!」
徐々に増えてくる背後のギャラリーたちを意識しながら、いよいよ最終ステージへ突入する。芽衣にとって一番の見せ場はラストステージのボスだ。弾のない空間を探すほうが大変なほどの攻撃を、レバー一つに神経を集中させて避けていく。普通のプレイでは見られないボスのレアな攻撃に、歓声が上がった。安全地帯などを軽く見せつけながら、五分間の攻撃を避けに避けまくり、我慢できなくなったボスが自爆してゲームクリアとなる。
「マジで不殺のまんまクリアしたよ。すげー!」
何度も見たエンディング画面を早送りにして、最後に出てくるエントリーネームの画面で「MEI」と入力すると、芽衣は優雅に立ち上がり、ギャラリーを振り返った。
「いや、すごかったっスね。あのパターンまで引っ張るとか神だ」
「あはは、ありがとう」
話しかけてきたのは、どこにでもいそうなオタクっぽい学生の男の子。その他にいるのも似たり寄ったりで、唯一目を引いたのは白いドレスを来た女の子だったものの、彼女もまた秋葉原の住人なのだろうと納得して、芽衣は小さくため息をつきながらフロアを去った。
ビルを出て少し歩いた芽衣は、似たようなゲームセンターへと入り、また上の階に行ってシューティングゲームをプレイする。何人かプレイヤーがいたものの、やはり芽衣好みの男性はいなかった。
それでも――と、一年前の奇跡を信じて、芽衣は筐体の前に座りコインを投入する。
そう、あれから一年が経つ。
あの日、いつも通り遅く会社を出た芽衣が憂さ晴らしに入った秋葉原のゲームセンターで、気が済むまで不殺プレイを楽しんでいたところ、彼に話しかけられたのだ。
スティックさばきに感動しましたというその男性は、芽衣と同じ三十代前半ぐらいのイケメンで、同じゲームをやりこんでいたもののクリアできずにおり、上手い人のプレイを参考にするために来ていたと言った。
話は盛り上がった。その場で一緒にゲームをやり始めて極意を教え、彼も夕食がまだだったというので一緒にご飯を食べ、お互いに翌日は土曜日で休みだと分かったので飲みに行き――気がついたらホテルで抱き合っていたのだ。
彼の腕の中へ包み込まれる安心感。体の中に駆け抜ける喜び。ここ五年は遠のいていた、心が満たされる感覚。本当に幸せな時間を過ごせたのだ。
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