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銃を突き付けて笑う彼女に連れて行かれたのは、秋葉原駅からほど近い場所にある万世橋の下だった。柵が外された階段を下りて、係留されていた小さなボートに乗せられる。
いったい何を操縦させられるのだろう。川にあるとしたら水上機か。そんなもの、ハリウッド映画ぐらいでしか見たことない。
混乱している芽衣をよそに、銃を持ったままドレスの彼女がやっとのことでボートへ乗り込むと、
「クレイドアムフへ」
と告げた。すると、ボートのエンジンが唸り始めて、勝手に動き出したのだ。
システムエンジニアの端くれとして業界にいるが、音声認識システムがここまで実用化されていることに驚き、改めてこの世界は進歩が早いと関心していた。そのうち宇宙旅行へ行ける日が来るのかも知れない。
「落ちないようにしてくださいませ!」
芽衣はすぐに彼女の言っている意味を理解した。あまりの速さに息もできなくなったからだ。
「うひゃあああ!」
ボートは狭い神田川を、まるで水上スキーのように水しぶきをあげながら浅草橋を越え両国に突き進む。隅田川に入ると、急カーブを描いて南へ向かい、月島に入り、広い海に出る。
そこは東京湾だった。視界の左右に明かりが見える。また芽衣は混乱していた。秋葉原から東京湾は数分で行ける場所だったのか。
「はあ……はあ……」
途中で隙あらば逃げ出そうと企んでいたものの、ここではどうあがいても海の藻屑となるのが関の山だ。
「さあ、潜りますわよ」
「は、はあ……? 潜る?」
「体をぶつけたら痛いでしょう? しっかり掴まっててくださいませ。進水!」
すると、ボートの両側がいきなりせりあがり、そのまま上まですっぽりと包み込んでしまった。まるで卵の中だと思ったその矢先、白い外壁がうっすらと溶けるように透明になっていく。
そしてゆっくり傾いたかと思うと、ボートは勢い良く海の中へ沈んでいった。船内に明かりが点く。あたり一面に水がきらめいていた。透明な潜水艇。まるでゲームの世界だ。頭がついていかない。
体のバランスをとりながら、芽衣は叫んでいた。
「何これ! どうなってんの!」
「大きな声を出さないでくださいませ。クレイドアムフに向かうのですよ」
ドレスの彼女は乗り慣れているのか、壁に背中を預けたまま銃口を芽衣に向けて微笑んでいる。
「く、クレードル? クレドルフ? それって何……よ!?」
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