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ボートの先端から放たれた光で照らしあげられたのは、海の底に横たわっている小さな飛行機だった。シャープな両翼と小さなコクピットは、戦闘機を一回り大きくしたようなフォルムをしている。尾翼の部分が焼け焦げているなと思ったその時、飛行機の上部がスライドし穴が空いたかと思うと、二人の乗っているボートはそこへ吸い込まれるようにして格納された。
水が吸い出されるごぼごぼという音が少しした後、ボートの動きが止まる。
「降りてくださいませ。これがあなたの操縦する船ですわ」
ボートを包んでいたガラスが縁に収納され、外側にあった壁が開く。銃を持ったドレスの彼女に促されてボートから出ると、すぐに操縦席らしい空間が見えた。背もたれのついた椅子の前には二つの操縦桿。ペダルもついている。前面のガラスを通した向こうには、真っ暗な東京湾の底が部屋の明かりに照らされて見えていた。
「リオガ様、よくぞご無事で。お怪我はありませんか?」
「えっ?」
その声に、芽衣はあたりを見回した。
聞こえてきたのは真面目そうな若い女の声だったが、誰もいなかったからだ。横で銃を突きつけているドレスの彼女は口を開いていない。
「クレイドアムフ、喜んでくださいませ。あなたを操縦できる凄腕のパイロットを見つけたきましたのです」どうやらドレスの女性はリオガと言うらしい。「ええと……そうでした。あなた、お名前は?」
「え? あたし? 佐藤芽衣だけど」
「サトウメイ。不思議な響きですこと。まあいいですわ。それでは、さっそく操縦してくださいませ」
と、銃で操縦席に座るよう促される。
「あたしが? この飛行機を? あんた、正気なの?」
自分はただのシステムエンジニアなのだ。
「正気とは意識が混濁していないことを指すのでしたら、その通りですわ。そもそも、サトウメイ。先程まであなたはシミュレーターで数々の弾を避けて、見事ミッションクリアしていたではありませんか。私が見たところ、あなたはかなりランクの高いエースパイロットですわね」
まさか本気で勘違いしていたとは。芽衣は焦った。訳も分からずこの飛行機を操縦したもののあっさりと墜落し、海の藻屑となる自分の姿が見える。
「ち、ちょっと待ってよ。パイロットってとんだ勘違いなんだって! そもそも、どこに行こうっての? 何で飛行機が海の底に?」
「落ち着いてくださいませ、サトウメイ」
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