婚活セミナーと旅立ち

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婚活セミナーと旅立ち

 少しトウの立った四十代の女性講師が、ゆっくりと部屋の中を見回す。  ビルの一室にある会議室の席を、二十代から四十代の女性ばかり二十人ほどが埋め尽くしていた。皆、仕事帰りに来たらしく、スーツやジャケット姿でバッグを傍らに置きながら、机の上でテキストを開き、女性講師を見つめている。  その講師は、長い髪をかきあげてメガネを直すと、口を開いた。 「いいですか? 婚活は遊びではありません。よくある合コンのように半年ぐらいのデート相手を見つけるテクニックが欲しいのでしたら、すぐにお帰りください。このセミナーでは、婚活がうまくいかない理由をあなたがた自身の女性としての能力――陳腐化された言葉ですが、すなわち女子力に答えを求めて、その間違った考えと生き方を指摘し修正する場になります。いいですか? あなたがたは女性として間違っているのです。そもそも女性とは……」  そうして講義が始まると、受講者の一人である佐藤芽衣は講師の話を聞きながらうんざりし始めた。  婚活どころか五年前から彼氏すらもできない独身の三十五歳。周りは次々と結婚してしまい、休日に傷を舐め合う仲間が減っていくのを肌で感じていた。  さらに仕事が忙しすぎて生理不順になったのをきっかけに、その辛い心境を打ち明けた友人からこの講座を勧められたのだ。  参加者の結婚率八十パーセントという驚異的数字を誇る、このセミナーの予約が取れたから行って来いと。  その好意を受けていざ結婚と意気揚々に参加してみたら、まさかの人格否定から始まったので、本当に、心の底からげんなりしてしまったのだ。  それでも参加費の一万円は馬鹿にならない。せめて元を取ろうと、ホワイトボードを見てメモを取り、一言一句聞き漏らすまいと耳を傾ける。 「いいですか? まずこれに当てはまるという人は手を挙げてください」  講師がホワイトボードに書いた言葉を順番に見ていく。  とにかく私をかまって欲しい、私を常に見ていてという姫気質がある、自分の好きなもの以外は拒否しがち、相手に望むものが多い、一人で何でもできてしまう、キャラが立ちすぎている。  ちらほらと手が挙がる中、芽衣もそっと手を挙げた。 「これに一つでも当てはまると、男性はデートに誘いづらくなるという統計が出ています。二つ以上になると、恋愛対象として見られること自体が奇跡のレベルでしょう」
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