15人が本棚に入れています
本棚に追加
その少年はいわゆる『座敷童』だ。古い民家などに居る妖怪だ。
彼の名は『明』と雅が名付けていた。
「そう言うなよ。明には僕がいるじゃないか」
雅は明を慰めた。
雅が『普通の人に見えない物が見える』と言うのは、明のような『妖怪』の類が見えるという事だった。
妖怪の類と言うのは普通の人には見えないだけで案外どこにでもいる。
暗闇の中や木の上、雑草の間にもいる。
ただし、ほとんどが妖怪とは呼べないほどひ弱で意思も持ち合わせていない。 昆虫のような存在なのだ。
彼らの内、ほんの一握りの者が長い時間をかけて成長し意思を持つようになる。そこまで成長して『妖怪の類』は『妖怪』と呼ばれるようになる。
岩戸雅(みやび)は依頼を受けて『妖怪』を退治する『霧散(むさん)師』だ。普通の者が持ち合わせていない力とは『妖怪を霧散する力』なのである。
雅の通う高校で生徒の一人が行方不明になった。その生徒は普通の生徒で家出などは学校の知人、両親ともに考えられなかった。
ホームルームの時間に雅のクラスでも心当たりがないか担任教諭が聞いていた。
「戻って来やしないさ」
雅は頬杖をつきながら、窓から見えるあの『立ち入り禁止』の一角を眺めて呟いた。
「また眺めてるの?」
隣りの席の司が小声で話しかけてきた。雅は司に視線を向けるとにこっと笑って言った。
「うん。あそこに昔、井戸があったんだってさ」
「へえ。そうなんだ。よく知ってるのね」
司は教科書を立てて教師から見えないように顔を隠しながら楽しそうに言った。司は話の内容が楽しいのではない。雅と内緒話をする事が楽しいらしい。
(そう、消えた生徒の祖父はあそこにあった井戸を埋めた人達の中の一人だからな)
雅は心の中で呟いて、再び視線をあの地点に向けた。
「生贄が一人。少し力が強くなったか」
再び雅が呟いた。
「えっ?なに?」
司が尋ねたが、今度は雅はそれには答えなかった。
次の日、今度は学校の用務員の男性が消えた。今度は家出を疑う者がいなかった。穴の入口に用務員の男性がいつも愛用していた麦わら帽が落ちていて、穴の縁には何かが滑り落ちたような痕跡があった。
誤って穴に落ちたのだろうと推測され、警察と消防がやって来て穴を調べて行った。
結果として、何も手掛かりは見つからなかったらしい。
最初のコメントを投稿しよう!