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「その業者たちは、せっかくの金儲けがふいになるので慌てたのさ。
そこで一番井戸に固執していた家の娘をあの井戸に突き落としたんだ。
もちろん……その娘は命を落とした。
その事件を契機に水道推進派の連中は、「危険だ」としてあの井戸を埋めてしまった。
亡くなった娘の無念の心とあの井戸を守っていた『水虎(すいこ)』は一つになって、ずっとあの穴の底に息をひそめていたってわけ。
今回、死んだり、怪我をした人達は、あの井戸を埋めた人達の子孫や縁者だよ」
雅が話し終わっても、浩司はなにやら考えているようだった。
「それじゃ。ただのお祓いじゃ駄目ってことか」
ため息交じりに浩司が呟いた。
「そうだね。『水虎』を消さないとね。あと、あそこにはまだ種クラスだけど妖の類がいる。奴らのために小さな祠を建ててやるといい」
「そうか。となると俺には無理だな。この仕事引き受けてくれるかい」
「もちろん。報酬は折半でいいよ。学校の依頼だから少ない手当てだろうけどね」
「ははは、確かに少ないな」
次の学校の休みの日に御子神神社によるお祓いが行われた。それは表向けなのだ。
その日の夜に密かに雅による『水虎』退治が行われる。
誰もいない夜の学校の校庭の片隅に雅はいた。
片手には胡瓜を一本持っている。
昼間に浩司が手を打っていていてくれて、穴の周りのフェンスや蓋は取り払われていた。
雅は無造作に胡瓜を穴の中に放り投げる。右手を開き顔の前に持って行く、片手拝みの形だ。
「ザンバラザンバラ ゲッコウザンバラ スイドヒクウ ザンバラ……」
雅の口から呪文が唱えられる。
『ザバーッ!』
大きな水しぶきとともに穴の中から、異様ないでたちの者が飛び出した。
全身苔色で一見してぬめりがある鈍い光沢を放ち、鼻はなく目は大きく耳は尖り、口は耳まで裂けている。手は大きく指の間はひれ状の膜がある。
「水虎。もう諦めろ、時代は変わった。ここにはお前が棲める所はないんだよ」
雅は幾分悲しそうに水虎に話しかける。
水虎が目を見開いたと思ったら、足元の穴から大量の水が、ものすごい勢いで雅を襲い、雅は水に包まれた。雅は悲しげな小さな笑いを浮かべ右手で空に円を描いた。途端、雅を包んでいた水の塊は吹き飛ぶ。
雅は水虎に近寄ると、人差し指を水虎の眉間に押しあてた。
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