第二章

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梅花がそう決心し、立ち上がる前に。 老女は言った。 「お嬢ちゃん、お名前教えて?」 近寄り、笑顔で老女は言う。 手を差し伸べながら。 だがそれは梅花にとっては救いの手などではない。 振り払うべき障害だった。 「………………っ!」 その瞬間梅花はちいさな獣であった。 威嚇し、他のものに縋れない、縋ることを知らないちいさな獣。 人間であるための、優しさを知らず、他人を知らず、自分のちいさな世界に引きこもっている。 傷ついていることさえ、自覚せずに。 ただの年老いた女の手に、皺くちゃの骨ばった手に、猛獣を見たかのように怯えを露わにしていた。 老女は震える梅花にかける言葉を知らなかった。 だから、梅花を抱きしめてぽんぽん、とその背中を叩く。 「お嬢ちゃん、大丈夫、私はあなたに怖いことは何にもしないよ。大丈夫、大丈夫」 梅花は戸惑った。 抱擁なんてされた記憶がなかった。 この老女のことが理解できない。 ただ、この温もりはとても温かいものであることは、理解できた。 「……ばいか、だよ」 なんとなく。 根拠なんてないが、この人はお母さんやお母さんの連れてくる人とも違うと感じた。 叩くのではなく、笑うのではなく、罵るのではなく、鬱陶しそうにするのではなく、優しく抱きしめてくれる人だ。 だから名前を教えた。 ばいかちゃん。 そう言った老女の声は震えていた。
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