第二章

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梅花は正座が苦手だった。 座禅も苦手だった。 目の前でお経を唱える老人を見て、梅花はもぞもぞと足を動かした。 まだか。まだなのか。 本当は今すぐにでも足を伸ばしたかったが、そこでじっとしていなさいと言われては動けなかった。 梅花にとって、一週間に一回あるこの時間は苦痛でしかない。 隣の老女を見るが、背筋を伸ばしてお経を聞く彼女は全く苦痛でないことが明らかだった。 結局、終わったのは3分ほど後のことだ。 梅花の足は完全に痺れていて、老人に抱えられて部屋を出た。 「梅花ちゃん、正座が苦手?」 「…苦手」 隣で梅花を覗き込むこの老女は香散見 由紀子(かざみ ゆきこ)。梅花を拾ってくれた人だ。 梅花を抱えているのは香散見 源(かざみ げん)。由紀子の夫であり、寺の住職である。 由紀子の家、というのは山の裾の方にあるこの寺のことだった。 まわりには山が広がっているが、この山も香散見家のものらしい。なので、山菜などをよく取りに行くのだという。 その健康的な食事のおかげか、梅花は順調に成長していった。 如何せん今までの栄養失調っぷりが尾を引き、まだまだ3歳の子とは思えないほどの小ささであるが。 拾われてから約半年。 梅花は平和に幸せを享受していた。 これからの梅花の人生にとって、この時が一番穏やかな時で有ったと言えるだろう。 裏のことなど何も知らず、一般人として生きたこの時が。 「そうだ、梅花ちゃん。今日、お客さんが来るの」 そして、このあとの梅花に多大な影響を与える、彼が来た。 「お客さん?」 「そう、ちょっと変な人なんだけど、いい人だから。…安心して梅花ちゃん。梅花ちゃんは私が守るから」 そう言った真剣な顔の由紀子に、梅花はなんだか言いようも知れぬ嫌な予感を感じていた。 誰か、……………関わってはいけない人が来る、と。
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