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その男が来たのは夕暮れの頃。
普通にチャイムを鳴らし、普通に老夫婦に挨拶をし、普通に手土産を渡し、普通に家に上がり込んで来た。
あまりにも普通の、常識的な訪問の仕方に梅花は安堵していた。
変な人じゃない、礼儀をわきまえていると、思ったからだ。
でも…。
なんだか変な雰囲気のひとだ。
近くで見て、そう思った。
「あぁ、紅理くん。この子は梅花ちゃん。可愛い子でしょう。……変なことしたら通報しますから」
由紀子がにこにこ笑いながら梅花をその男に紹介した。
梅花には最後が小さくて聞こえなかったが。
「よろしく、梅花。おれは架々瀬 紅理(かがせ くり)だ」
紅理がしゃがみこんで梅花に笑いかけると、梅花の脳内の警鐘ががんがんと鳴った。
このひとは危ない。
だって、こんなにも……血の匂いがする。
「君は小さいね」
目を細めて紅理は呟く。
その言葉を合図にして、梅花は弾かれたように走り出した。
「あ、おい!」
「梅花ちゃん!?」
紅理と由紀子の驚いた声。
それにも構わず家を飛び出し、木々の中をかけた。
「あのひとは…なに?」
この時、梅花にとって紅理は敵ではなかった。
しかし紅理のあまりにも濃密なそれを感じ取った梅花の本能は紅理の近くにいることを拒絶したのだ。
だから梅花は何も考えず、本能のまま逃げた。
だが、本当に逃げたいのなら部屋へ行くべきだったのだ。
気分が悪いとでも言って。
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