第一章

2/6
前へ
/13ページ
次へ
ふと顔を上げると、目の前の梅の木に鶯が止まっていた。梅花は、一つ瞬きをして鶯をじっと見つめた。 鳥アレルギーの自分は近くに近寄ることはできないが、遠目に見ることくらいは許されている。 梅花は鳥が大好きだ。元々動物は基本的に大好きなのだが、鳥はアレルギーのこともあり、それに拍車がかかったのだ。 (眩しい) 美しい春の青空には隠すもののない太陽が鎮座していた。風は少し冷たいが日差しのおかげで半袖のブラウスを着ていても寒さはあまり感じない。 それでもなんとなく、腕をさすると薄い傷跡が見えた。 (まだ、残っていたんだ) この傷跡はずっと昔の、まだまだ短い13年の人生の中できっと一番大きな出来事の、時のものだった。そう、あの時、自分の異能が初めて発現した時の。 所詮皮膚の極一部を強化するというだけのそれほど強くもない異能だが、あの時は自分がとても強くなったなどという勘違いをしていた。 だがこうやってこちら側に関わるようになり、自分は強くなれないと確信した。 (だからきっとお母さんは、わたしを) 迎えになんて、来てくれない。 正直、母のことはあまり覚えていない。それは幼い頃に捨てられたからというのもあるが、梅花は記憶を封印しているのだと思っている。 うっすらとあるのだ。疲れた様子の女の人が自分を叩く記憶が、着飾った女の人が誰かと腕を組んで歩いているのを見ている記憶が。 その女の人は母なのだろう。 (わたしはお母さんの荷物だった) だから彼女は梅花を捨てた。いらなかったから。邪魔だったから。重かったから。 (じゃあなんでお母さんはわたしを産んだの?) 『あの人は迎えに来てくれない!』 誰かを、繋ぎとめたかったのだろうか。梅花は、そのための道具だったのだろうか。 それでも、その母が求めた人は来てくれなかった。 役目を果たせない道具など必要ない。 そうして、彼女は孤独になった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加