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それだけに、その「平和」を謳う国としては異常な光景を、壊す者がいるのは逆に異様であった。
「お嬢ちゃん、どうしたの。お母さんやお父さんはいないの?」
タバコやガムや鳥の糞などで汚れた道路に躊躇わず膝をつき、その老女は梅花と目線を合わせた。
梅花は何も言わない。
空を見上げて、ぱかっと口を開いたままだ。
反応しなかったのではない、そもそも聞こえていなかったのだ。
梅花の身体はあるべき栄養が与えられていないために、梅花からすればせかいはとても遠いものだった。
「お嬢ちゃん、大丈夫?お父さんとお母さんは?」
老女は諦めずにもう一度、ゆっくりと繰り返した。
明らかにおかしい梅花の様子に、心の底から心配そうにしながら。
梅花はただ、空を見上げる。
「……お嬢ちゃん、耳が聞こえていないの?それとも、もう心が壊れちゃったの?」
老女の硬い声にも梅花は答えない。
ビルに囲まれて小さくなった青空を見上げているだけ。
「お嬢ちゃん、とりあえず私の家においで。お父さんとお母さんは後で探そう。」
老女が梅花の手を引くと梅花は老女を一瞥したが特に何も言わず、されるがままであった。
老女は自分が巻いていたストールを梅花に巻き、その痛々しい姿を隠した。
「もう大丈夫だからね、何も心配いらないのよ……」
梅花は俯いて、首を振った。
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