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コンクリート片による撲殺。不意をつき、凶器で身体的不利を補ったなら、細腕の少女でも成人男性を殺すことは可能なのだ。
無論、正当防衛で、水透は罪に問われない。だが、世を少なからず騒がせた血生臭い事件に関わっていたというだけで色眼鏡をかけて見られるものなのだ。
「佐助くん、学校では話しかけてこないでね。その、君のためにもならないから」
知り合って何日か一緒に店で働き、大分打ち解けた頃、水透は佐助にそう告げた。噂のことは知っていたから、佐助はピンときた。彼女は佐助が自分と親しくして、彼に害が及ぶことを心配しているのだ。
噂なんて別に気にしないから。口を開いてそう伝えようとした佐助を、水透は制した。
「だめ。佐助くんには迷惑かけたくないし。だから、ね?」
押し切られてしまった。
佐助は、何度か学園で水透とすれ違ったが、彼女は目も合わせてくれなかった。
気になったので、こっそり教室の様子も見に行った。窓際の、後ろの方に座り、ぼんやりと教室の外を眺めていた。
彼女は常に独りだった。
水透はその後三年近く、登美耶麻で孤独の日々を過ごしている。自宅と、この『パストラル』以外では周囲に誰も近寄らない、無視されている、という話だ。健気に、普通に振る舞ってはいるものの、辛くないわけはない。
だが、水透はこの地にとどまっている。
実母の死後、水透が引き取られた藤嬢家は大金持ちで、当主も子供たちを放任にしているというから、彼女の高校卒業後の進路は自由のはず。どこか遠く離れた場所に移り住み、周囲に誰も自分のことを知る者がいない環境で一からスタートすることも可能だ。いや、それ以前に、登美耶麻とは別の、他県の高校へ転校することだってその気になればできたはずなのに。
つまるところ彼女は登美耶麻から、この店から離れたくないのだ。
これまでも、そして、これからも。
何故だろう? 愛着があるのは分かるけど。
「そうだ、君も卒業したらここで働きなよ」
水透の明るい音色の声に、佐助は現実に引き戻される。
彼女はハンバーグをこね始めていた。真っ白な手をひき肉と卵の黄味でピンクの斑模様にしている。素早さと正確さ、見事な手並みである。
「二人で正規の店員になって、いっぱい料理の勉強して腕を上げたらマスターと真知子さんにはお子さんもいないことだし、頼みこんでお店継がせてもらおうよ!
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