第1章

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 と、笑顔で主張する水透はとにかくよく寝る(ちなみに白クマは冬眠しないし、冬眠は好きでするものでもない)。いつでもどこでも誰といても3分で熟睡。彼女のあまり役に立たない特技である。というより趣味か習性か。 「ごめんね。でも、三年生はね、いろいろ大変なんだもん。全国の十八歳は夏が勝負なの。みんなこの時期クラクラだよ。胃がキリキリだよ」 「それは進学を考えている人のセリフです。そもそも普段から真面目に勉強していれば定期試験なんてさほど難しくはないはずです」  ピシリと指摘する。水透は、うー、と唸ってスネている。「優等生はこれだから…」ブツブツ文句を言っている。佐助の見たところ頭の回転もよく、やる気を出せばできるタイプなのだが、どうも彼女は勉強が嫌いなようだ。 「先輩、高校出たらどうするつもりですか?」  自然と口に出していた。  前から気になっていたことだ。大学や専門学校に進むつもりはないみたいだし、どこかに就職するつもりなのだろうか?   当の本人は、意外というかやはりというか自分の将来を楽観視していた。 「えー、考えたこともなかった。卒業できるかどうかもアヤシイし。来年は、同じクラスになれるといいね、佐助くん」 「そんな冗談で済まないような恐ろしいこと笑顔で言わないでください。落第候補のトップのくせに。将来のこと、考えておいたほうが良いですよ」 「急いで決めてもロクなことにはならないって。ほら、ムロマチ時代の偉いお坊さんが、こんな素晴らしい格言を残してくれてるよ」 「何です?」 「『あわてなーい、あわてなーい。ひとやすみひとやすみ♪』」  一休さんですか。  そういえば朝にアニメの再放送をやっていて、低血圧なはずの水透が何故か欠かさず見ているという話を前に聞いたような気が……。 「先輩には、『光陰矢の如し』の方がふさわしいですよ」 「アハハ、キビシイなあ佐助くんは。冗談ばっかし言って」 「冗談は言っていませんよ」 「……それにしても将来ねえ。うーん、そうだね、この店に住み込みで働かせてもらえないかな。そしたら大好きな佐助くんとまた一緒にいられるものね」  一瞬、心臓がドキリとする。
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