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それはそれは綺麗な一目惚れで、中高と男の巣窟で生きてきた蒼にとって、これほど可愛らしい生き物が自分に話しかけてきたことに、虚しいほどの感動を覚えてしまった。
一瞬で硬直する手足と、砂漠のように乾燥する口の中。
自分を満たす異様な感情に、蒼は恐れを抱いた。
「転校生君。確か剣道部入るんだっけ? 三年生なのに一生懸命なんだね」
輝いてすら見える綺麗な声。
既に蒼は泣きかけていた。
「ねえ、立つから手貸して」
そう言って女子生徒は細く白い右手を蒼の方に伸ばした。
細過ぎるからではないが、蒼の目にその手は非常に鋭利に見えていた。
尖ってすら見える。
触ったら怪我をする気がする。
まるで刃物のようだった。
「ごめん……嫌だった?」
そう言いながら、想像以上に辛そうな表情を見せた女子生徒の右手はゆっくりと元の場所に戻っていく。
「待って!」
「イタッ」
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