転校生

5/9
前へ
/39ページ
次へ
 蒼が言葉を返す前に女子生徒が言った。  そして握った手に力が入り、女子生徒が立ち上がろうとしていることに気づき、蒼は腕に力を入れた。  細くて綺麗な手。  蒼には刃物のように見えたその手は、紛れも無く女の子の温かい手だった。  全部見透かされてる。  心の読み合いでは絶対に勝てない。  蒼は確信してしまった。 「私はね、転校生君が思ってくれてるほど、綺麗な人間じゃないよ。想像以上に気持ち悪い人間だと思う。だから、気を使わないで」  女子生徒は立ち上がり、蒼から手を離した。  言葉の意味を理解する前に、蒼は右手の寂しさに心が震えた。  居心地のいい手だった。  でも、自分の手は震えていた。 「私の名前は国松有紗。転校生君の名前は確か……北町蒼君……だっけ?」 「あってる」  有紗はニッコリと笑った。 「やった覚えてた。よろしくね、蒼君」
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加