幕間 志田孝義は独考する

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幕間 志田孝義は独考する

   七月二十日      ※    未練がないと言えば嘘になる。夏休みも始まったばかりだし、何よりまだやりたい事が残りに残っている。巻き込まれた経緯はさっぱりと解らんが、今この瞬間が自分の人生で最高潮にマズい状況だ、ということは解っている。  ……まさか自分でもこんなことが起きるだなんて、想像もできなかった。走馬灯のように思い出が頭の中をカッ飛んで来るということもなく、僕自身の見ている風景はさっきからずっと一緒。体感時間にして一分ほど同じ光景だった。馴染みのパン屋を通り過ぎた所におっ立っている、『飛び出し注意』の看板が取り付けられた電柱。その横に差しかかった時、ふと日の光が遮られて、タイヤの鳴る音がして……なんだろうと首を横へ向けた、まさにその瞬間のまま。  こういう風に物事を考えられるほど世界の速度が遅くなっているこの状況を比較的冷静に確認できるほど思考はキッチリと機能しているくせに、身体はそうではないらしい。指一本動かすこともままならず、視線も一切動かせない。  ……いわゆる、これが臨死体験の前哨戦たる『世界がゆっくり見える』ってヤツのことだろう。  ちなみに今現在、僕をちょうど横から挟むようにして、右側1メートルぐらいの位置に電柱、左側2メートルぐらいの位置に巨大なトラックが居る。  逆光で若干神々しくもあるトラックは、非常にゆっくりとしたスピードで迫ってきていて、そのスピードたるや亀もびっくりの超鈍行運転。よくぞそんな繊細なタッチでアクセルを踏めたと運転手を逆に褒めてやりたいが、残念ながらそれは叶わないだろう。  何しろ、運転席には誰も乗っていなかったんだから。
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