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「このホテルのオーナーに
会わせてもらいたいのだが」
「少々お待ちください」
フロントマンは、受話器を取り、
かがんで電話をしている。
立ち上がって、
「お会いいたしますので、こちらへ」
私は、導かれるままに、ついていった。
オーナー室のようなところに訪れるのは、
もう、何回目だろう。
私は、東京で警察官をしている。
一応、刑事だ。
見た限り、私が訪れたオーナー室の中では、
一番質素だろう。
事務所と変わらない、と思った。
「オーナー、お連れしました」
「ああ、ありがとう」
オーナーは、普通の叔父さんと言う感じの人物だった。
ただ、眼の奥に何か嫌なものが見えた気がした。
「どうそ、こちらへ」
応接セットのソファーを勧められた。
私は、長いすに座り、オーナーと対峙した。
「あのー、記者さんとかでいらっしゃるのですか?」
「いえ、私はこういうものです」
私は、名刺を渡した。
オーナーは驚いたようだ。
「あの、事件の捜査とかでは…」
「いえ、この温泉街が閉鎖になるようなことを
聞いてね、それで確かめにきたのですよ。
私の実家は、 この先のダムで
眠っているんです」
「ああ、そうなんですか。それは…」
「正直なところを聞かせてもらえますか?」
「はぁ、この件は是非ともご内密に…」
「わかっています。数年前有名な温泉街でも、
温泉が出なくなって、騒動がありましたよね?
それと同じようなことですか?」
私は面倒になったので、相手にYESかNOで
応えさせるように仕向けた。
「はい、その通りです」
(なんだか、職業病のようだな)
やはり、刑事などをやっていると、疑い深くなるものだ。
(ウソはいってないな、いう必要もないか)
「私は私の想い出を、無くしたくはないのです。ですので、
資金をお貸ししますので、
再建してもらいたいと思っているのです」
オーナーの顔色が変わった。
(コイツにカネを渡しちゃダメだな)
持ち逃げされるだろう。
これは確定事項だ。
「あなたの表情はわかりすぎますね。
私はまがいなりにも刑事です。今、
アンタが考えたことを、いってやってもいいんだぞ」
私は、少々腹が立ってきた。
「この温泉街の協会長はどこだ。案内しろ」
(もう、ヤクザだな)
と、私は思って、笑ってしまった。
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