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五千万の家
「ごめんね。なんだか同じ話ばかりで。でも口に出さずにはいられなくて」
項垂れたマミを同情するように、
「いいのよ、そんなこと気にしなくても」
ミカヨは親友の手にそっと自分の手を添えた。相手もそれを握り返してくる。
「ありがとう」
マミの言葉と同時に玄関のドアの開く音が聞こえた。
誰?と言いたげな彼女の視線に、ミカヨは壁の時計を一瞥してから、
「たぶん、旦那ね」
「ああ、じゃあ帰るわ、私」
マミは慌てて立ち上がり、バッグを手に取った。
「あら、いいのに。ゆっくりしていけば」
「ううん。大丈夫」と彼女は健気な笑顔を見せる。
「話を聞いてもらっただけで少しすっきりしたから」
そんな会話をしているうちに、リビングのドアが開いた。
「おい、ミカヨ。ビッグニュー……ス……」
部屋に入ってきたトシアキは、そこに妻以外の人物がいることに気づき、苦笑を浮かべながら会釈をして見せた。
「ああ、どうも。お客さん?」
その問いかけにミカヨが「そうなの」と答える。それと同時にマミが口を開いた。
「いえ、ちょうどもう帰るところでした。お邪魔しました」
彼女はトシアキの横をすり抜け、玄関のほうへと小走りに向かう。ミカヨも見送るために席を立った。
少し間を置いてドアの開閉する音が聞こえた。リビングに戻ってきた妻にトシアキが問いかける。
「今の確か……?」
「マミよ」
「ああ、そうだ。マミちゃんだ。あの子、もうすぐ結婚するとか言ってなかった?」
「そう。同棲中の彼氏とね」
「それにしては、やけに暗い顔だったような……」
トシアキの疑問にミカヨはため息を漏らす。
「婚約者が、帰ってこないんだって」
「へぇ。新しい女でも出来ちゃったかな」
にやけ顔の夫に彼女は顔を引きつらせる。
「ちょっと、冗談でも不謹慎よ」
「別にいいじゃん」
鼻で笑ったトシアキは、「そんなことよりも」と目を輝かせる。
「ビッグニュースだ。空き家になってた俺の実家な、五千万で売れたんだよ」
「は?」と要領を得ないミカヨの手を引いてイスに座らせた彼は、その向かい側に自分も腰掛けた。
「だから、俺の実家、長いこと空き家のままだっただろ?田舎に帰る予定もないから、いつか何とかしなきゃってお前にも話したことあるじゃん。そうしたらこの前地元の不動産屋からいきなり連絡が来てさ。 五千万で買いたいって。願ってもない話だから、即OKしたよ」
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