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博士の案内で研究室に通された。見慣れない機械や装置が並ぶ中、部屋の真ん中に電話ボックスのようなものがあった。
「これがタイムマシンだ」
博士は自慢げな表情でそれに寄りかかった。
「そこに入ってタイムスリップをする、と言うことですか?」
「まさしくその通り。しかし漫画や映画のように、無制限に出来るというわけではない。タイムスリップが出来るのは、この装置がある時代限定だ。つまり、時間を超えた二台のこの装置の中を移動するということだな」
「それなら、現時点では未来にしか行けないのでは?」
俺の疑問に、博士は想定内だとばかりに「いやいや」と笑う。
「実は、この装置自体が完成したのはもう四十年も前のことなんだ。エネルギーや安全面の問題で、稼動させるのに今までかかってしまったというわけだ」
「と言う事は、四十年前までなら過去にも遡れると」
「その通り」と言って博士はタイムマシンの扉を開いた。
「では早速、実演して見せよう」
そう言って中に入ろうとする彼を「待ってください」と呼び止めた。
「実演とは言っても、本当にタイムスリップできたかどうか、私には確認のしようがありません。博士ができたと言い張るだけかもしれない」
「そんなことはせんよ。なんなら君も一緒に来るかね?」
「いいえ、遠慮しておきます。事故が起こる可能性だってありますし」
俺の言葉に博士はムッとした表情を浮かべる。
「じゃあどうするね?」
「こうしましょう。実は三十年前、私はある公園のベンチにカバンを置き忘れてしまったんです。それをここに持ってきてくれませんか?」
「三十年前なら大丈夫だ」と胸を張る博士に、俺は日時と場所を告げた。
それを暗記するように口の中で繰り返しながら、彼はタイムマシンに乗り込んだ。
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