第1章

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 しばらく待ってからその扉を開く。そこに博士の姿はなかった。  さらに待ってみる。博士は帰ってこない。と言う事は、彼は二度と戻っては来ないだろう。タイムマシンがあれば出発した時間に戻ることが出来るのだから。  これでタイムマシンは俺のものだ。思わず笑いがこみ上げた。  三十年前の記憶が再び甦る。  あの頃、俺はまだ高校生だった。ちょっとしたイタズラ心から農薬を混入させたお菓子をあちこちのスーパーの売り場にばら撒いた。瞬く間にそれは全国的なニュースとなり、調子に乗った俺はそのメーカーに脅迫状まで出した。やめて欲しければ一億円用意しろと。金の受け渡し場所にはある公園を指定した。約束の時間、そこのベンチの上には黒いカバンが置かれていた。  俺はマンションのベランダからそれを眺めつつ、あれをどうやって取りに行こうか悩んでいた。ところが突如見知らぬ男が現れ、カバンを持ち去ろうとした。当然潜んでいた警察が現れ、男は難なく逮捕された。  今日初めて博士を見たときは驚いた。三十年前に逮捕されたあの男とそっくりだったからだ。しかし彼がタイムマシンを完成させたことを思い出した瞬間、俺はすべてを理解した。  似ているのではなく、博士イコールあの男だったのだ。そして、あの時あの場所に、今の俺自身がいたということだ。
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