第1章

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 息を潜めてベンチのほうを見つめる。博士が現れた。黒いカバンを持ち上げる。その直後、大勢の刑事が飛び出してきた。  コートを脱いで帽子をかぶった。今のご時勢どんなものにもマニアはいるもので、ネットで探せばこんな古い制服だって簡単に手に入る。これで俺はどこから見ても警官だ。  駆け足で公園に入ると、手錠姿の博士を刑事たちがパトカーへと引きずってゆくところだった。いずれ彼が脅迫犯でないことはわかるだろう。しかしすぐに釈放されるとは思えない。なぜなら身元の確認ができないからだ。この時代には若い頃の博士本人が居るのだから。 「自分は未来から来た」と叫びながら博士は闇雲に暴れまわる。刑事や警官たちは呆れ顔でその姿を眺めていた。  そのどさくさにまぎれ、地面に転がる黒いカバンを拾い上げた。それを提げて来た道を戻る。誰も俺に気を留める様子はない。  公園の傍にあるマンションの三階をチラリと見上げる。ベランダに人の姿があった。  心配するな、十七歳の俺よ。三十年後のお楽しみだ。  心の中でそう思いながら、一億円を手に入れた俺はタイムマシンへと急いだ。あとはこの金を、もう一年さかのぼって少しずつ両替するだけだ。そうすりゃ足がつくこともなく、全て使い放題だ。
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