第1章

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 N駅のコインロッカーに荷物を入れて全財産の100円玉を投入して鍵を引き抜く。  後は今から乗る、北陸行きの電車の切符しか持っていない。  免許書も、スマホもすべてこのコインロッカーの中。  今の私には必要のないのものだ。  だってこれから私死ぬんだもん。  父が死んでからしばらくして、巨額の相続税の支払いが私の両肩に乗りかかってきた。  どれだけお金を集めても、知人に紹介された弁護士に泣きついても「あと一億円」たりないという悲しい現実。  そして今日の5時までに払わないといけない。  さもなければ、5時を過ぎた時点で実家と道場は差し押さえられてしまう。  思い出のつまった場所なのに、そんなの耐えられない。  私も両親のいるあの世に旅立とうと決心してたのが昨日のこと。  家にあるお金をかき集めて切符を買った。  そしてすべてを失う前に日本海に身を投げるんだ。  さてそろそろ行こう。  ポケットに鍵を入れてプラットホームに行こうとしたその時。  『りりりぃ』と、聞きなれた着信音と振動がコインロッカーの中から響いた。  いったいだれからだろう?  無視することもできたが、私は今までかかってきた電話を取らなかったことはなかったので、結局、電話に出ることにした。  テレビドラマでも、自殺する前は誰かに電話して話しているもんだし。  ということで先ほどポケットに入れた鍵を取り出し、ロッカーを開ける。  出てきたコインをポケットにしまい、バックの中をあけてスマホを取り出す。  着信は親戚の信にいだった。 「もしもし……」  これから自殺すると察されないように平然を装う。 「お前いまどこにいる?」  信にいさんは今までにないくらい焦っていた。 「え、N駅だけど」 「良かった、金の準備ができたらすぐそっちにいくからそこで待ってろ」  なにいっているんだろう?首をかしげる。 「どういうこと?」 「どういうことって一億円だよ」 「えっ一億円!」  持っていたスマホを落としそうになった。 「あと4時間くらいでそっちにいくからまってろ」  電話を切られた。  一億円準備ができた……。その時ふっと足の感覚がなくなり、私は地面に倒れた。   名古屋駅の救急看護室で目が覚めた私はつけられていたテレビをみて、信にいがいかにして億万長者になったかを知った。  田んぼから石油がでたのだ。
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