第1章

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 一億という巨大な数字に気をとられて今まで気づかなかった。  ひいていた汗が再び全身から吹き出し、心臓が大きく跳ねあがる。  お金なんて一円も持っていない。(ここまでは電子マネーを使った) 「あの……。負けてなんてもらえませんよね?」 「……」  おずおずと尋ねたのだが、職員は冷たい視線を返答代わりに送ってきた。  どうしよう?あたりを見渡してもお金を貸してくれそうな人は見当たらない。  その時、スピーカーから蛍の光が流れ始めた。  時計を見ると16時45分。あと15分までにあと、あと百円払わないと一巻の終わりだ。 「先ほどの一億円は確かにありましたので、お金の都合が出来ましたらカウンターまでお越しください」  そう言い残すと職員は私の前から去っていった。  うなだれる私。  映画とかだったら、かっこいい王子様かワイルドな男が助けてくれるんだけどな……。と妄想の世界に逃げ込む。  「あの、すいません」  と、男の声が聞えた。まさか!驚いて顔をあげるとそこには。  自分でも引いてしまうくらいの、デブで不細工な男が立っていた。  「お困りのようでしたらお力になりますが」  と言うとその男は唇の両端を歪め、瞬きもせず私の目を湿った目線で見つめてきた。  ここではスピーカーから聞こえている「蛍の光」は少しくぐもって聞こえる。  私は着ているジャケットのボタンを一つづつ外す。  目の前にはあの男。イヤらしい笑みを浮かべ、鼻息を荒げスマホで私の体を撮っている。  あの後私はこの男に強引に手を引かれ、同じフロアにある、身体障害者用トイレに連れ込まれた。  抗議の声を上げようとすると、先ほどの慇懃な態度とはうって変わり冷たい声で。 「服、全部脱いで」  と言われた。  もちろん抗議もした。大声あげて助けを呼ぶとも言った。するとこの男は「ふーん。別に逮捕されてもいいけど。そしたらお金はらえないよね?」といってきたのだ。  そして、冷静な判断力を失った私は、一つづつボタンをはずしていくことになった  恥ずかしくて目を開けてられなくなる。どうせなら早く済ませてしまおうと思うが、緊張で体がうまく動かない。  するとたまりかねた(いやな表現だ)男が「はやくしろよ」といい強引に私のジャケットを強引に脱がしにかかった。胸のボタンがぶちっと取れ、脱げたジャケットを床にたたきつけた。
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