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コール音が、耳元に鳴り響く。
……。
…………。
………………。
どれくらい繰り返しただろう。ただ虚しく鳴り続けるだけで、由美子は一向に出てくれない。
スマホを握る手に、力がこもり、汗ばんでくる。
「どうしてっ」
何かあったら電話してって言ってたのにっ……。
入浴中とか、トイレ中とか?
ううっ……こんな時に。
私は諦めて電話を切り、元通りポケットにスマホを忍ばせた。
とにかく、こうなれば覚悟を決めるしかない。
私はいつものように、走り始めた。だが普段と比較して十キロも体重が増えているお陰で、上手く走れない。
それでも走る。走るしか手段が無いから、走る。
「はぁ……っ、何とか着いた……」
安堵の言葉が口から零れ出た。
夢中で足を前に進め、ようやく自宅のマンション前に辿り着いたのだ。
スタミナが限界を越えていた私は、その場で膝に手をつき肩で息をして、呼吸を整える。
落ち着いた頃に、今度は安堵の息を一つ吐き、それから体を起こした。
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