何よりも、大切なもの

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自室に入ると、軽くトンっと突き飛ばされたので、距離を置いて振り替える。 すると……。 「えっ……、和史くん……?」 そこに立っていたのは、由美子の彼氏の和史くんだった。フードを被ったまま、こちらを見据えてきている。 聞き覚えのある声だと内心思っていた……でも、まさか。 普段の彼のように、ふわっと優しげな微笑みを浮かべ──だけれど手の中に光るナイフがミスマッチすぎて、頭が混乱する。 だから、どっきりなのかと考えてしまったくらいだ。 由美子と一緒にいるはずの彼が、何故? 「どうしてここへ? それに……」 ──そのナイフは、本物ですか? 聞きたいけれど、聞けない。だって、仮に偽物であったなら、百歩譲って冗談で済むけれど、本物なら……ブラックジョークで片付けるには、少し厳しい。 「それはね……僕がある意味、貴女の仲間だから」 「……どういう意味?」 「ねえ、野中さん。僕のこと、誰だかわからない?」 ──嫌な予感が、先程から胸中で渦巻いている。 嘘だ。そんなはずはない。 だから、口に出そうとして……けれど踏み留まり、結んでしまう事の繰返し。 「あはは、まあわからないか、普通は。 君と昔、お付き合いしていたのだけれど」 「っ!」 考えていた嫌な予感は、あっさりと的中してしまった。ストーカーの正体は、元彼だったんだ。 「やはり、わからないものなんだねえ──幸夫の隣に君がいた時、僕が一目見ただけでは、君が野中さんだとわからなかったように」 でもやっぱり、有り得ないよ。だって……。
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