何よりも、大切なもの

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「君が整形し続けているのと同じで、僕も整形したんだ。 僕のこと、声や仕草でわからないかな。 ──ねえ、野中 理沙(ノナカ リサ)さん?」 「っ……!」 ごくりと、唾液を飲み込んだ。 喉が、カラカラに渇いてくる。 心臓が、ばくばくと大きく脈動していくのがわかる。 「ああ、それとも山下 美咲(ヤマシタ ミサキ)さんって呼んだ方がいいのかな。いや、理沙さんも美咲さんも偽名なのかな。 でも、僕は理沙さんと付き合っていたのだから、理沙さんと呼んでいいよね」 平静な様子の和史くんに、私も平静を装って話を聞く。 うるさい心臓は聞こえないフリ。 汗ばんでくる手は見ないフリ。 歪みそうになる顔の皮膚は、何とか平常を保って知らないフリ。 「──どうして生きてるの? って思ってるんだよね」 「っ……何の話をしているの?」 「運良く助かったんだよ。リハビリ生活、大変だったけれども。 ……ところで、それ、一億円だよね。どうして理沙さんが持っているの?」 「……だって、私の物で…」 「違うよね」 キッパリと、確信を含んだ様子の声に、私は何も言い返せなくなる。 でたらめを言わないで! そう力強く言い放ちたいのに、普段饒舌な舌が全然言うことを聞いてくれない。
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