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「えー!1億円!!」
いつもの居酒屋で飲んでいた桃井若菜は、友人の緑川美佐の告白に驚き、つい大きな声で叫んでしまった。
「ちょっと声が大きわよ!」
「ごめんごめん」
若菜は身を小さくして周りを見る。金曜日ということもあって、店内はほぼ満席、客層はサラリーマンに大学生、どこも騒いでいた。これならいくら叫んだところで言葉までは聞こえないだろう。
「でもあれ、ほんとに当たるんだね」
「そうなのよ。私も当たるはずないと思ってたのに。心臓が飛び出すかと思ったわ」
「えー、私もやればよかった」
その手のものは当たるはずないと思っていた若菜は、これまでに宝くじの類のものは全くやったことが無かった。
「で何に使ったの?まさか募金とか?」
「まさか!そのお金で世界一周して、そのあと大学に入りなおしたの。でその後アメリカの大学院に通って、今の会社に就職」
美佐はビールを一気に飲んだ。会社ではおしとやかで通っている美佐だが、ほんとは男っぽいところを若菜はこの3か月で知る。そしてそんな美佐に憧れていた。
「でもそれじゃあ、お金はまだ余っているんじゃない?」
世界一周の値段も、アメリカの大学院の授業料も知らないのだが、それでも1億はかからないだろう。
「一応ね。いざという時のお金は残してあるわ。でもそれ以外はあげちゃった」
「あげた?」
「そう。正確には私と同じように、お金が無くて大学に行きたいのに、行けない人にあげたの」
「募金じゃん!」
「募金っていうより支援よ」
「支援かー。やっぱ美佐はかっこいいなー」
「かっこよくはないわよ。というよりもそうしなきゃなって思っちゃうのよ」
「かっこいいじゃん」
「違うのよ、若菜も見ればわかるわ」
ビールおかわり!と叫ぶ美佐はやはりかっこよかった。
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