第1章

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「海斗、すごかったな」 黒沢海斗は赤石徹と一緒に坂道を下っていた。先ほどまでミニバスの試合があり、その帰りだった。 徹の言ってた通り、今日の海斗はすごかった。何本も3Pを決め、得意のキラーパスで相手チームを翻弄させていた。 「いやそんなことないだろ。レギュラーの徹のがすごい」 俺だって負けてないのにな、と海斗は思いつつも、実際には徹の方が上だった。小学6年生に上がり、徹はキャプテンに指名され、もちろんレギュラーとなったのだが、海斗はレギュラーにはなれなかった。 それでも海斗はシックスマンと呼ばれ、流れを変えたいときに出番がやってくる、いわば秘密兵器的な役割を与えられたことに、満足していた。 そもそも海斗は徹と小さい時から「俺は赤だからリーダーなんだよ。海斗は黒だから5レンジャーの6人目がお似合いだよなー。謎のレンジャー枠だ」と黒沢と赤石の名前になぞってレンジャーごっこをしていたこともあり、徹がキャプテンになり、自分がシックスマンなのは妙に納得していた。 それに最近、主人公がシックスマンだったバスケット漫画が流行っているのも、海斗にとって嬉しいことだった。陰で支える主人公はいつの間にか海斗にとって、モデルプレイヤーになっていた。 「いや俺は全然だめだったよ」 徹は肩を落とし下を向く。確かに今日の徹は変で、下手というよりも、集中してないのが、海斗はベンチにいる時から感じていた。観客を妙に気にしているようだった。 「なあ海斗、お前、もし一億円があったらどうする?」 徹は海斗を見ずに下を向いたまま突然話を変えてきた。 「一億?どうしたんだよ急に?」 やはり今日の徹は変だ。 「俺はさ世界を救いたいよ」 「なんだそれ?」赤レンジャーだからか、と海斗は茶化したくなる。 「一億あれば世界くらい救えそうな気がしないか?」 「そういわれると」確かに一億と言う響きは何でもできそうな気がする。 「俺は世界を救ってみたい」 その一か月後、赤石徹は突然他県に引っ越しをした。 そして海斗はレギュラーになった。
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