0人が本棚に入れています
本棚に追加
「海斗、すごかったな」
黒沢海斗は赤石徹と一緒に坂道を下っていた。先ほどまでミニバスの試合があり、その帰りだった。
徹の言ってた通り、今日の海斗はすごかった。何本も3Pを決め、得意のキラーパスで相手チームを翻弄させていた。
「いやそんなことないだろ。レギュラーの徹のがすごい」
俺だって負けてないのにな、と海斗は思いつつも、実際には徹の方が上だった。小学6年生に上がり、徹はキャプテンに指名され、もちろんレギュラーとなったのだが、海斗はレギュラーにはなれなかった。
それでも海斗はシックスマンと呼ばれ、流れを変えたいときに出番がやってくる、いわば秘密兵器的な役割を与えられたことに、満足していた。
そもそも海斗は徹と小さい時から「俺は赤だからリーダーなんだよ。海斗は黒だから5レンジャーの6人目がお似合いだよなー。謎のレンジャー枠だ」と黒沢と赤石の名前になぞってレンジャーごっこをしていたこともあり、徹がキャプテンになり、自分がシックスマンなのは妙に納得していた。
それに最近、主人公がシックスマンだったバスケット漫画が流行っているのも、海斗にとって嬉しいことだった。陰で支える主人公はいつの間にか海斗にとって、モデルプレイヤーになっていた。
「いや俺は全然だめだったよ」
徹は肩を落とし下を向く。確かに今日の徹は変で、下手というよりも、集中してないのが、海斗はベンチにいる時から感じていた。観客を妙に気にしているようだった。
「なあ海斗、お前、もし一億円があったらどうする?」
徹は海斗を見ずに下を向いたまま突然話を変えてきた。
「一億?どうしたんだよ急に?」
やはり今日の徹は変だ。
「俺はさ世界を救いたいよ」
「なんだそれ?」赤レンジャーだからか、と海斗は茶化したくなる。
「一億あれば世界くらい救えそうな気がしないか?」
「そういわれると」確かに一億と言う響きは何でもできそうな気がする。
「俺は世界を救ってみたい」
その一か月後、赤石徹は突然他県に引っ越しをした。
そして海斗はレギュラーになった。
最初のコメントを投稿しよう!