第1章

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「久しぶりだな、徹」 「ああ久しぶりだ。20年ぶりくらいか?」 「良く見つけたな」 「ネットは怖いな」と徹は笑った。 黒沢海斗は赤石徹のお見舞いに来ていた。突然徹からSNSで、話したいことがあるんだ、と連絡を受けたのは3日前だ。 「体、大丈夫か?」 「いやあんまり」 徹の体は若いながらも癌に侵されていた。もう助からないらしいんだよ、と静かに話す徹をみて海斗は泣きそうになる。海斗の知っている徹の姿はもうここにはなかった。 「なぁ海斗、一億円のこと覚えているか?」 「一億円?」 「一億円があったらっていうやつだよ」 「ああ、世界を救いたいとか言ってたやつか」 そう言えばミニバスの試合の帰りだったよな、と海斗も思い出す。 「それがどうしたんだよ」 「俺、21の時、宝くじでさ、一億円当たったんだよ」 「え?うそ?」 「それがほんとなんだよ」 「それで、どうしたんだ?」世界を救ったのか? 「世界をさ、救ってみようとしたんだよ」 徹は力なく笑って続ける。 「でもダメだった」
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