281人が本棚に入れています
本棚に追加
父の秘書、柏木さんが静かにドアを開ける。
あ、ちなみに龍音の父親が第1秘書で、この柏木さんは第2秘書。
龍音の父親は、父と一緒に隠居したらしい。
「失礼します」
一礼して入ってきた男には見覚えがあった。
いや、見覚えがあるなんて可愛いものではない。
「……翡翠?なんで」
忘れようとも忘れられなかったその声が、今一度自分の耳に飛び込んできた。
そこにいたのは、もう会うことはないと思っていた彼。
アメリカに行ったんじゃ……
「こちらにどうぞ」
固まっている俺には御構い無しに、柏木さんが彼にソファーを勧め、紅茶を運んでくる。
当の俺は、今の状況がわからず、ボケッと突っ立っているだけ。
「翡翠様もお座りください」
知ってか知らずか。
ま、知ってるか。
鍵を渡すだけだと言っていたはずが、長居をさせるつもりか。
「翡翠…どういう、こと?」
うん、それは俺も聞きたい。
2人して柏木さんを見る。
「お父上様からの伝言です。『もう時効だよ』と」
何が時効だ!
訳がわからない。
彼だって眉間にしわを寄せて何かを考えているではないか。
こんなところで、こんなタイミングで再開して。
どうしていいのか、何を話せばいいのかなんて、わからない。
どうしろって言うんだよ…
最初のコメントを投稿しよう!