第1章

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父の秘書、柏木さんが静かにドアを開ける。 あ、ちなみに龍音の父親が第1秘書で、この柏木さんは第2秘書。 龍音の父親は、父と一緒に隠居したらしい。 「失礼します」 一礼して入ってきた男には見覚えがあった。 いや、見覚えがあるなんて可愛いものではない。 「……翡翠?なんで」 忘れようとも忘れられなかったその声が、今一度自分の耳に飛び込んできた。 そこにいたのは、もう会うことはないと思っていた彼。 アメリカに行ったんじゃ…… 「こちらにどうぞ」 固まっている俺には御構い無しに、柏木さんが彼にソファーを勧め、紅茶を運んでくる。 当の俺は、今の状況がわからず、ボケッと突っ立っているだけ。 「翡翠様もお座りください」 知ってか知らずか。 ま、知ってるか。 鍵を渡すだけだと言っていたはずが、長居をさせるつもりか。 「翡翠…どういう、こと?」 うん、それは俺も聞きたい。 2人して柏木さんを見る。 「お父上様からの伝言です。『もう時効だよ』と」 何が時効だ! 訳がわからない。 彼だって眉間にしわを寄せて何かを考えているではないか。 こんなところで、こんなタイミングで再開して。 どうしていいのか、何を話せばいいのかなんて、わからない。 どうしろって言うんだよ…
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