第1章

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そう、ドアから入ってきたのは、アメリカに行ったはずの悠人。 彼の様子からして、俺がこの学園の理事長になることは知らなかったようである。 にしても。 なんで隠居親父は悠人を雇ったのだろう。 調べればわかるはずだ。 彼があの学園の副会長だったことなど。 だからこその『時効』なのだろう。 あの隠居親父が俺と悠人の仲まで知っていたかはわからないが、一体どうしたいんだかサッパリわからん。 「鍵を取りに行って参りますので、こちらで少々お待ちください」 ちょ! 柏木さん! このタイミングで二人きりはマズイんじゃ、ないかな? あ、はい、とか言って頭を下げる悠人も困った顔をしてるじゃないか。 「お久しぶり、です」 柏木さんが出ていった後の部屋に訪れた静寂を破ったのは悠人だった。 「あぁ」 俺は言葉が出てこないというのに。 「会いたかった…。会いたかったから…」 戻って来たんです、と告げる彼の目には、何かの決意が宿っているようだった。 「ここにいればいつかは会えると思って。葛城の学園なら、翡翠との接点が見つかると思ったので」 溢れるように出てくる言葉を、黙って聞く。 「もちろん、雇ってもらえるとは思ってませんでした。最初はビックリしましたし、信じられませんでした。一か八かだったんです」 彼はこんなにも喋る人間だっただろうか。 離れていた時間が長すぎて。 その溝はそう簡単には埋められない。
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