第1章

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「もう一度、私にチャンスを頂けないでしょうか」 そう告げ頭を下げる悠人に、俺は何と言えばいいのか答えあぐねていた。 そこに柏木さんが戻ってきた。 ナイスタイミング。 嫌、もとはと言えば2人きりにしたこの人が悪いのだが。 「これが部屋のカードキーになります。今案内を呼んでおりますので」 そう言えば、鍵を取りに行ってくるとか言っていたが、さっき机に置いていたじゃないか。 なら、取りに行った鍵って? 「こちらが翡翠様のものになります」 柏木さんが手にしていたのは金色のカード。 これまた懐かしい。 なんでこう金持ち私立校って考えが似るんだろう。 金持ちだから仕方ないのか? 「翡翠様にも同じ教員寮に入って頂きます。こちらのキーは理事長専用になりますので、失くされない様になさってください」 え、あぁ、うん、そうだよね。 わかってはいたけど。 同じ寮か……。 ってか、俺、社長としての仕事もあるから、寮に住むとか…… 「プレゼントだそうです。もう一度学校生活を楽しんでほしい、と」 あの隠居親父、今更なんですけど。 ま、これがあの人なりの優しさなのだろう。 この学園は、父さんが俺のために建ててくれたモノ。 きっといつかは俺に、と思っていたのだろう。 仕方ない。 大人しく受け取っておこう。 不器用な父さんの優しさを。
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