第1章

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「ここは私の地元の神様が祀られています。」 雪音の話を聞くところによると、ここの近くが雪音の地元らしい。この神社は夏になると祭りが行われとても賑やかになるという。それにここにはなんとも不思議な言い伝えがあった。 「ここで願いをしたあと蛍が現れるとその願いが必ず叶うんですよ。」 雪音は手水舎で身を清めながら言った。 「今は昼ですよ。日中に蛍が出るわけないでしょ?」 「その蛍は普通の蛍と違います。それに言い伝えでは昼夜関係なく見れると言ってます。あっ、あと蛍はこの神社の外でも現れる事があるとも言われています。」 「・・・まぁ、とりあえず参拝しませんか?」 「はい。」 俺たちは賽銭箱に小銭を入れて参拝をした。俺は手を合わせながら横を見てみると、雪音が目をつぶりながら懸命に何かをお願いしているように見えた。 参拝を終えて神社を後にしている途中で俺は雪音に聞いた。 「雪音さんは何を願いましたか?」 すると雪音はその質問に答えずに 「徒粟さんは願い事は叶うものだと思いますか?」 いきなりの質問に俺は一瞬戸惑ったが、その質問に応えようとした。 「・・・正直わかりません。」 「私はね、徒粟さん。この世にある全ての人が作ったものには人の願いがこもっていると思うんです。」 「全てに?」 「はい。人は願い、願われて強くなります。こうなりたい、こうでありたいと願う事が人を動かすと思います。」 「願うだけでは叶わないという事ですか?」 「一般論では、という事ですけど。」 「というと?」 「人はどうしても叶えられそうにない願いをする事もあります。その時、徒粟さんはどうしますか?」 「普通ならそんな事願いませんけど、そうですね、どうしてもというなら強く願ってみます。」 「私もそう思います。強く願う事がどうしても叶えられない願いを叶える唯一の手段と思います。この神社はそんな願いが具現化したところだと言われています。」 「それで雪音さんはそのどんな願いも叶うかもしれない場所で何を願ったのですか?」 「言いません。どうせ叶いませんから。」 「どうしてそう思うんですか?」 「蛍を見れなかったからです。」 「そんな事で諦めますか?さっきまでの君とは違ってだいぶ弱気ですね。」 「人は自分の事になると弱気になるものです。それにこの願いは私一人では叶える事ができません。」
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