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約30分歩いてスーパーに着いた。
歩いている間の記憶はほとんど無い。修験僧のように黙々と足を進めていた。
2リットルはかいた汗がシャツがずっしりと重い。
日陰に置かれたウォーターサーバーまでどうにかたどり着く。
ビニール袋に水が溜まる時間ももどかしく気が狂いそうだった。
この辺りでは唯一のスーパーで、都市部の人間の他に校外からの人も多く、色とりどりの人で溢れかえっている。
ダウンタウンの雑貨ショップと違って、ここで地面に座っていると物乞いと間違われて追い払われるか狙われるかしそうだったので疲れ切った体をなんとか起こして立ち上がる。
様々なスタイルの様々なルーツの人がいる。
だけど、僕はその中にあってもワンケースの異邦人だった。
肌の色や形は現地人に似せてあったが、雰囲気や心象風景は未だ故郷のものだった。
僕と同じルーツを持つ国からの公式な渡航記録はまだこの国には無い。
僕がこれから切り拓くのだ。
そんな使命はあるものの、僕はすでに死にそうだった。
食事が合わず、胃袋の中身は常に空っぽだった。
「あの、大丈夫ですか?」
意識朦朧とした頭に光のように差し込んできた声があった。
「え」
「いいコンディションには見えなかったから」
余計なことだったらごめんなさいね、そんな前置きをしながら真っ赤な果実を差し出してくれたのが君だった。
俺は叫んだ!
君は目を見開いて正にギョッとしたし、
周囲の人は異物をみるような目で僕を見たし、
子供は大人達の陰に隠れて怯えたし、
ガードマンを呼ぼうとする人もいたし、
拳を構えそうな僧侶もいた。
おそらく熱で僕はトンデモなくおかしくなっていたのかもしれないけれど、とにかく僕は差し出されたトマトにかぶりつき、
犬のように君の掌の上で平らげ、
あまつさえギラついた物欲しげな瞳で君を見上げ、おかわりを要求した。
いま考えるとその刻に戻って自分を蹴り飛ばしてしまいたい。
この時の君の印象はまさに最悪だったに違いないから。
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