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「俺たちも新聞記事やら聞き込みやらで、コンクールの課題曲が問題になっているところまでは突きとめた。当然、その作曲者の情報も探索したのだけれど……無記名で配達されたんじゃ、どうにも解からないからね」
わたしは憮然としながらも、納得せざるを得ない。でも、それなら成司さんが作り話すればいいじゃない。わたしにやらせないでよ!
「ところで杏子ちゃん、犯人の説明、やけに具体的だったけど、心当たりでもあったのかい?」
いつも調停役、苦労の絶えないわたしの従兄、千太郎さんがお茶を差し出しつつ言った。
「まさか! ええとね、よく友達と行く喫茶店のマスターがあんな感じの人なの。45歳でクラシック音楽好きだしね。あ、さっきの人、喫茶店を当たってみるって意気込んでいたよね? マスターが疑われたりしたらどうしよう。いい人なのに迷惑かけちゃうよ」
「でもさ、「この曲作ったのはあなたですか?」て聞いて回るのかな? もし犯人に行き着いても素直に、はいそうです、なんて言うわけないよな」
「ハハ、そりゃそうだよな。あの檜山って人も大変だな」
みんなゲラゲラ笑っている。他人事だけど、ちょっと可哀相だなとわたしは思った。
そもそも『呪いの曲』なんてものが本当にあるのかな?
あれ? 成司さんと千太郎さんだけ笑ってない。なんか真剣な顔で見つめ合っている。なんか不気味だな。
「杏子ちゃん、いいかげんに化粧落とさなきゃピチピチの肌が痛んじゃうわよ!」
メイク担当、マッチョのロクさんが隣部屋から駆けこんできた。
2
「ホント、樋口の奴にはムカツクわよ」
わたしの目の前では親友の深山けいちゃんが冷水を一気飲みしている。
今日は夏休み初日の土曜日。本当は昨日の期末テストが終わったあと、けいちゃんと樋口君(けいちゃんの彼氏、わたしの初恋の人だ)と3人で打ち上げをやるはずだった。でも、わたしは神己会があったし、けいちゃんも試験勉強で徹夜続き。結局、中止になった。
今朝早く、不機嫌なけいちゃんの電話で起こされた。会って話したいというので、外で待ち合わせということになった。
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