第1章

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わたしたちにとって身も凍る思いの期末試験期間だった。というのも中間試験のころ、わたしはけいちゃんの復讐劇(結局、誤解だったけど)に巻き込まれ、その影響で赤点4つもとってしまった。当のけいちゃん、それに復讐相手の樋口君もそれぞれ3科目の赤点だった。進級も危ぶまれ、先生たちにもさんざん嫌味を言われた。だけど必死に勉強したかいもあって、3人とも落第することはなさそうだ。 そして楽しいはずの夏休みに突入したのだが、何故かけいちゃんは怒っている。原因は樋口君にあるのだ。 「中学最初の夏休みだよ。海にキャンプ、映画にコンサート、いっぱい遊ぶ計画あったのに、全部パーなんだよ。信じらんない! アホ樋口! きょーこもそう思うでしょ?」 「……ええと」  咄嗟に言葉が見つからない。先ほどこの店に入ってからずっと、けいちゃんは捲くし立てるように、樋口君への不満を口にしている。地味な見かけのわたしとは違い、けいちゃんは、はっとするような美少女だ。でも、口は悪い。  けいちゃんは夏を満喫するつもりだった。でも、帰宅部のわたしたちと違い、樋口君は休み中も部活があったのだ。 小柄だけど昔から足の早かった彼は、中学校から陸上を始めた。そしたらいきなり才能が開花したみたい。走り幅跳びの選手になった樋口君は、いきなり地区大会優勝、都大会入賞という快挙を成し遂げた。全国大会にも出場することとなり、更に東京都のジュニア強化選手にも選ばれた。おかげで彼の夏休みのスケジュールは練習と試合で埋まった。けいちゃんはそこが面白くないのだ。 「大体、一人で砂場を跳ねて何が楽しいのよ! それよりわたしと過ごした方が何倍も有意義でしょうが!」 「うーん、陸上みたいな個人競技は自分自身と向き合うものだからね。一生懸命練習して記録を伸ばしていく。樋口君、今が伸び盛りだから楽しくてしょうがないんじゃない?」 「きょーこ、やけに樋口の肩を持つじゃない。あー、樋口に惚れちゃ駄目だよ。あれはわたしのだからね」  むちゃくちゃ言うなあ。樋口君は物ではないんだけど。 「けいちゃんも足速いのだから陸上部に入ったら? そしたら、毎日樋口君と一緒にいられるよ」 「やだよ。何が悲しくてこの暑いなか、グランドを走り回らなければならないのよ。わたし、スタミナに自信がないのが自慢なんだからね」
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