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「じゃあ行こうか、けいちゃん。千太郎さん、お腹減ったらいつでも家に遊びに来てね」
けいちゃんを引っ張るようにして、わたしは走り去ったのだった。
「……あせったよ」
千太郎は汗を拭いながら、杏子の機転に感謝した。
杏子の推測したとおり、千太郎は神己会の仕事でこの喫茶店を監視していた。
昨夜、千太郎と成司は本部に残り、密談を交わしていた。
「先輩、またやりましたね」
「……何がだ?」
成司はそっけなく対応する。
「最後の犠牲者のとき、わざと杏子ちゃんに対応させたでしょう?」
「ふふ、お前もちょっとは頭が回るようになったか」
出来の悪い弟子を見る目で成司は千太郎を眺めた。
「そのとおりだ。あの依頼がお手上げだったのは、達也らが述べたとおりだ。まあ、どうせ駄目もとでと思い、杏子ちゃんの『能力』に賭けてみたという訳だ」
杏子の能力。それは不定期に発現する予知能力だった。これまでハプニングによって成司との通信が途切れたときに、杏子が自ら紡ぎ出した言葉は全て正しい『啓示』となって依頼を解決する要因となっていた。
「あてにはしてなかったが、どうやら力が発動したみたいだな。犯人のモデルになったという喫茶店のマスター。そいつが怪しいな。おそらく呪いの曲の作曲者だと推測される」
「……僕、思うんですけど、あの娘の能力って予言と言えるのかな? 何か思いつきの言葉が真実になっているような、強制力みたいなものを感じますよ」
「……
「あ、これも思いつきですから。気にしないで下さい」
千太郎は慌てて両手を振った。
「……とりあえず、お前、その喫茶店を見張れ」
「僕がですか? どうして? ナオさんら捜査班に頼めばいいじゃないですか」
「予知能力のことは他のメンバーには内緒だろ。ナオに何て説明するんだ」
「……解かりました」
結局、千太郎はしぶしぶ成司の命令に従った。だが、普通に仕事する喫茶店のマスターを見張っても何も変化は見られない。意味があるのかは疑問だ。
(呪いの曲作るような人には見えないけどなあ)
千太郎はのんびりと食器を洗うマスターを見て思った。
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