Close:ヒナside

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 録音はそこでブツリと切れた。 このデータの録音日時を確認すると、奥田さんの葬式の直前のものだ。 「これ……」  なんと言って良いか分からなかった。 いきなり会話が始まって分かりづらかったが、双治君の言葉は普段の優しい彼とはかけ離れている。  ――『いじめられても仕方ない』。  データの中の彼は、平然とこう言ってのけた。 いじめられるのは当然のことなのだと。 そしてそれを咎めた巧君に、不機嫌な声で言い返している。  ――『お前、何が言いたいんだ?』  私の知っている双治君ではない。 けれど、声は間違いなく彼のものだ。 「……双治君との会話をこっそり盗み撮りしたんだ。純粋に彼との何気ない会話を残しておきたかったから。でも……」 「じゃあ、証拠が残らないと思ってこんなことを?」 「……あのときは、双治君がこんなことを言い出すなんて思わなかった。だから僕もとっさに録音を切ったんだ。悪いことをしているような気がして」 「あのときは、って?」 「徐々に本当の彼が見えて来た。誰の目もないところで何度もヒナと別れるよう迫られて」 「本当に?」 「僕じゃヒナを守れないって。オカマ野郎は身の程をわきまえろって、奥田さんと同じことを言われてちょっと笑っちゃった」  虚勢ではなく、彼は本当に笑みを浮かべていた。 どうしてだろう。 こんなひどい言葉、私ですら怒りで手が震えるほどなのに。 「どうしてすぐ言わないの? 私に言ってくれたら……そんなひどい言葉から、絶対に巧君を守ったのに!」 「違うんだ」  巧君は首を振る。 目を細めて、寂しそうに笑いながら。
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