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一億円は、確かに俺の口座に振り込まれていた。
長引く、というレベルをとうの昔に過ぎ去ってしまっている、まさに無限の不景気。
それに加えて、確実に進行している高齢化社会が、この国の現実だ。
これらの問題に対応するべく、政府がこのたび提案した抜本的な経済政策が、この一億円の正体なのである。
減円方式――。
約一ヶ月前、国民すべての所有する財産は、一度預け入れという形で国に納められた。
ここでいう財産とは、紙幣および硬貨のことだ。この世の中から、紙幣と硬貨が消え去った。
それは文字通り、物理的に存在しなくなったということを意味するが、仮にどこかの誰かがひそかにそれらを隠し持っていたとしても、昨日を持ってそれは紙切れや鉄くずに姿を変えたことになる。
消え去ったのは、物理的存在だけではなく、その価値もだ。
代わりに国民一人ひとりに配布されたのが、キャッシュカードのような外観をした一枚の証明書である。
その名を『国民資産管理証明書』という。
これはキャッシュカードであり、クレジットカードであり、身分証明書でもある代物。
このカードが、今後の俺たちの生活においては命綱となるわけだ。
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