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ゆっくりと男が振り返ると、薄らと口元に笑みを浮かべる。青白い光を受けて半分影を差した顔は寂しげで哀愁を感じさせる。
男を取り巻くものの正体を知る者にとってみれば、男の姿は複雑なものだった。
「夢を……見ていたんだ。もっと見ていたかったのに、すぐに消えてしまった」
暫しして、独り言のようにそう呟いた男の言葉に、側近の男は意味を問うような無粋なことはせずに、無言で耳を傾ける。
自分の主が返事を欲しくて言っているわけじゃないことを、側近の男は何も言われずとも察していた。
側近の優しさは男の胸に温かく染みる。
「……終わりじゃない。そうだろう?」
今度は問いかけた男に、側近の男は暫しの間の無言の後に、ああと短く答えた。
男は一度だけ満月の方を振り返り、立ち上がると室内へと静かに戻っていった。
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