夢つかみそこねる夢みて

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 私の作品というのは、和紙を土台に、その和紙へ油絵の具で抽象画を描くというものなのだが、絵を描けば描くほど、和紙代と絵の具代がかさんでゆくというありさま…。  「でも、せめてこの子たちが評価されて、お腹いっぱい食べられるくらいには稼げるようになりたいなあ。」  ふと、半ば勘当された状態で別れてしまった父の顔が浮かぶ。父には金があった。むしろ、父の側には金しかなかったと言った方が良いのかもしれない。  彼は晩酌ついでによく幼い私にお金の大切さを語っており、一億円が宝くじで当たったら、車を買いたいだの、別荘を買いたいだの、ハワイへ旅行に行きたいだの、ちっぽけな夢を延々と聞かされていた。  そんな父が嫌で嫌でたまらなかった私は、父に反発し、金以外の価値観を見つけ上げたくて、高校を卒業後すぐに家を出て、芸術家を目指し都会に上京してきたというわけだ。  父は、私が出て行くときに、おまえはろくに稼げもせず飢え死にするだろうという呪いの言葉を吐き捨てたが、事実、私は今、飢えに苦しみながらなんとか生活しているという状態である。  (名を馳せたいってのは、本当はお金目的よりも、父に認めてもらいたいという気持ちの方が強いのかもしれない。)  そんなことを思いながら、ぼんやりと新たな作品制作を進めていた。
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