夢つかみそこねる夢みて

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 彼女の作った特製のオムライスを頬張る私に、千夏ちゃんがにっこりと微笑みかけてくる。ああ、お金がなくても、彼女の手料理が食べられたら、それだけで幸せだ。  「夢ちゃんは、ほんと美味しそうにご飯を食べるよね。作り甲斐があるってもんだわ!」  「いやいや、千夏ちゃんの作る料理はとても美味しいんだもん、こっちこそ食べ甲斐があるってもんだよ!」  千夏ちゃんは、料理の才能も目を見張るものがあるが、絵の方の才能も非凡なものがあった。  彼女の作品は社会派の、メッセージ性の強いものとなっており、多くの賞をかっさらってゆく、新進気鋭の美人クリエイターとして雑誌やテレビの取材を受けることもあった。  彼女はときには鉛筆と消しゴムで、ビルに突っ込む飛行機をつくり、ときにはハトの羽根でできた機関銃を飾りたて、ときにはダンボールでできた議事堂からバラの花の炎を上げさせていた。  彼女の温和な見た目からは想像も出来ないほどの、エネルギッシュで刺激的な作品が多くの人々を魅了したのだった。特に国会前に集まって、声を枯らして叫んでいるようなタイプの人たちには、彼女の作品はウケがよく、是非広告塔としていっしょにデモに参加しないかと、多くの誘いが来ているそうだ。  私は彼女に、デモに参加したくないの?、と聞いたことがあったが、彼女はさらっと受け流すように、興味ないわ、とだけ言うのだった。彼女は作品ができればそれでいいのだそうだ。
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