夢つかみそこねる夢みて

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 千夏ちゃんの作ったオムライスを食べ終わり、制作途中の作品へと向かう。千夏ちゃんが未完成の作品を覗き込む。  「わあ、夢ちゃん今回も良い作品が出来上がりそうだね!赤の下地に白と黒か。最近の政治に対する風刺を込めているのね。すごくいいわ。ねえ、これ完成したら、ちょっとあたしに貸してくれない?今度個展を開くから、それに夢ちゃん用のスペースをつくってあげる!もちろんレンタル料は出すわよ♪」  千夏ちゃんはいつも、私の作品を誉めてくれる。大親友のつくった作品だからかもしれないが、正直世間で売れっ子の作家に認めてもらえるのは、とても嬉しいことだ。それに、千夏ちゃんの私の作品に対する感想はいつも、正鵠を得たものであり、まるで私自身の心の中を見透かされたように、その作品の意図するところを言い当ててしまうのである。  彼女の作品といっしょに飾ってもらえるのはありがたいことであり、一気に有名になれるチャンスかもしれないが、いつもお世話になっている身でありながら、彼女の力を借りてお金までもらって、ずけずけと引き受けるのでは申し訳ないと思い、やんわりと断ることにした。  「え?いいよ千夏ちゃん。私みたいなのの作品なんか。千夏ちゃんの傑作たちと比べると、見劣りしちゃうものばかりだし。それにいつも千夏ちゃんにご馳走になってばかりだから、もしこの作品が欲しいなら、完成したときにあげるね!」  とは言うものの、千夏ちゃんの作品と並んだ我が作品たちを想像して、いつか自分も有名になって、二人で個展を開くんだ、と決意し、また一つ自分の名前と同じ“夢”を増やしたのだった。
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