第1章

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その苦労を全く口に出すことはなかったこの人が、今日になって 今この瞬間になって自分を作った過去、それも悲しく苦しい記憶を語ってくれた。 この人を本当に行かせていいの? 『あいつは、大東を捕まえるために刑事になった。  今日、大東の元に行かせないということは鞍馬が選択した  刑事という人生を否定することになる』 三坂さんの言葉が蘇る。 「M。もう戻れ。  任務があるだろう。  俺も長話が過ぎた。すまない」 「もし、1億円があったら17歳だったあなたの傍にいることができる  タイムマシンを作ります。そして、ZERO CITYの壊滅を防ぎます!  それで…それで…」 涙でぐちゃぐちゃになりながら、鞍馬さんを見つめる。 窓から必死に手を伸ばし、手を握った。 その手の優しい温かさにまた涙が溢れ出た。 切なくて切なくてどうしようもなかった。 ただ行かせたくなくて、必死に時間を紡いでいた。 もう最後になるかもしれない、鞍馬さんとの時間を。 「あなたを助けます!私が!もっと立派な刑事になって!」 鞍馬さんがふっと笑った。 時間警察に入って、ずっと一緒に仕事をしてきて初めて見る 笑顔だった。 「未来、お前はもう本物の刑事だよ」 そういうと鞍馬さんは、ゆっくりと私の手を戻し車の窓をゆっくりと閉めた。 そして同じようにゆっくりとアクセルと踏んだ。 一度もこちらを振り返ることはなかった。
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