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〔1〕
最悪だ。
康則は横隔膜に力を入れてから、深く息を吸い込んだ。大丈夫だ、肋骨は折れていない。
次に、大型フォークリフトにナイロンザイルで括られた両腕と、かろうじて爪先が床に着いた両足の筋肉を緊張させる。激痛が脳天まで突き抜けたが、こちらも骨は折れていないようだ。
クラブから連れ出され、気付いた時には自由を奪われていた。
気分は最悪だが、数人の男に殴られたおかげで意識がはっきりした。不幸中の幸い……と思う事にしよう。
「これだけ殴られたら、また気を失うと思ったんだけどな。さすが〈鬼狩り〉、鍛え方が違うね。クスリの効果も三十分しか保たなかった。鞠小路は康則の半分しかクスリを飲まなかったのに、当分、気が付きそうもないぜ?」
頭の後ろに手を組み、良昭が戯けて笑った。康則は気力を奮い、顔を上げて良昭を睨みつける。
「……良昭、おまえが〈業苦の鬼〉なのか? だが何故、〈鬼狩り〉の存在を知っている? 誰に聞いたか知らないが、俺を殺しても無駄だ。鬼化した者は必ず狩られ……」
背中に強い衝撃を受け、言葉が詰まった。良昭の仲間が、鉄パイプを振り下ろしたのだ。
「おい、これ以上、痛めつけるなよ。鬼龍の殿様が来る前に、死んじまうだろ?」
困ったように眉を寄せ、良昭は仲間から鉄パイプを取り上げた。
「悪いね、康則。さっきの暴行も、俺がやらせたんじゃないんだ。こいつら、仲間をあんた達に殺されて、気が立ってるんだよ。先週の土曜日、山下埠頭で派手な見せ物をしてくれただろう? あの時、斬られたのが仲間の一人だったのさ」
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