第1章 業苦の鬼

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「いやぁ、悪いね。実は僕、神奈川県警の者なんだけど二、三、質問に答えてくれる? 一応、学園の敷地外という条件で許可はとってあるから」  提示された身分証には、神奈川県警捜査一課・相馬祐介と書いてある。身分は巡査部長だ。  捜査一課所属刑事と解り、康則の中に警鐘が鳴った。  鬼龍家の役目柄、警察との関係は深い。しかしそれは上層部で行われるやり取りで、巡査部長クラスでは分厚いカーテンの向こうを覗き見るなど不可能なのだ。  高槻家の件で無いことは、明白だった。ではいったい、何だろう? 「ええと、名前聞いても良いかな? うん、鎧塚康則くん……っと。君は昨日、何時くらいに帰宅したかな? 自転車置き場に来た時間は?」  昨日は鎌倉近くの高槻家に出向くため、所属する理学部に出ないで帰った。 「三時半くらいだと思います……昨日は用があって、早く帰ったから」 「何の用?」  そんな事まで、詮索するのか?   少し不快に思ったが、警察に協力的な一市民を装う。 「鎌倉に住んでる叔母が病気で、見舞いに行きました」  裏を取りに行くとは思えないが、念のため執事の鈴城に話を合わせてもらう必要がある。 「そっか、じゃあ、もう一つだけ。最近、裏門のあたりで不審な人物を見かけなかったかな? この学校は一般道に面した入り口がないから、外部の人間が近づくと気配ですぐ気が付くんじゃない?」  相馬は口元だけに笑みを浮かべ、上目遣いに康則を見た。嫌な言い方をする刑事だ。 「刑事さん以外の不審人物なんて、見てません。何かあったんですか?」  すましてやり返すと、相馬はきまり悪そうに笑った。 「まあ、いずれ解っちゃうと思うけど……僕からは言えないんだよ。急いでるところ呼び止めて悪かったね、ありがとう」  素直な反応に、康則は当惑した。  肩書きを、意識しすぎたか? 警戒の必要は、無いようだ……。  軽く頭を下げて、その場を後にした。  だが門扉に遮られるまで、まとわりつく視線は康則を追いかけていた。  ◇  思い返してみれば送迎車に似つかわしくない車が、私道入り口に数台止まっていた。目立つことを避けた、警察の車に違いない。  教室に入ると、他にも事情聴取を受けたらしい数名の生徒が固まり、深刻な顔で話し込んでいた。  何が、あった?  学園内のざわつきに耳を澄まし、情報を集め、必要なら将隆に報告しなければならない。
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