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「いやぁ、悪いね。実は僕、神奈川県警の者なんだけど二、三、質問に答えてくれる? 一応、学園の敷地外という条件で許可はとってあるから」
提示された身分証には、神奈川県警捜査一課・相馬祐介と書いてある。身分は巡査部長だ。
捜査一課所属刑事と解り、康則の中に警鐘が鳴った。
鬼龍家の役目柄、警察との関係は深い。しかしそれは上層部で行われるやり取りで、巡査部長クラスでは分厚いカーテンの向こうを覗き見るなど不可能なのだ。
高槻家の件で無いことは、明白だった。ではいったい、何だろう?
「ええと、名前聞いても良いかな? うん、鎧塚康則くん……っと。君は昨日、何時くらいに帰宅したかな? 自転車置き場に来た時間は?」
昨日は鎌倉近くの高槻家に出向くため、所属する理学部に出ないで帰った。
「三時半くらいだと思います……昨日は用があって、早く帰ったから」
「何の用?」
そんな事まで、詮索するのか?
少し不快に思ったが、警察に協力的な一市民を装う。
「鎌倉に住んでる叔母が病気で、見舞いに行きました」
裏を取りに行くとは思えないが、念のため執事の鈴城に話を合わせてもらう必要がある。
「そっか、じゃあ、もう一つだけ。最近、裏門のあたりで不審な人物を見かけなかったかな? この学校は一般道に面した入り口がないから、外部の人間が近づくと気配ですぐ気が付くんじゃない?」
相馬は口元だけに笑みを浮かべ、上目遣いに康則を見た。嫌な言い方をする刑事だ。
「刑事さん以外の不審人物なんて、見てません。何かあったんですか?」
すましてやり返すと、相馬はきまり悪そうに笑った。
「まあ、いずれ解っちゃうと思うけど……僕からは言えないんだよ。急いでるところ呼び止めて悪かったね、ありがとう」
素直な反応に、康則は当惑した。
肩書きを、意識しすぎたか? 警戒の必要は、無いようだ……。
軽く頭を下げて、その場を後にした。
だが門扉に遮られるまで、まとわりつく視線は康則を追いかけていた。
◇
思い返してみれば送迎車に似つかわしくない車が、私道入り口に数台止まっていた。目立つことを避けた、警察の車に違いない。
教室に入ると、他にも事情聴取を受けたらしい数名の生徒が固まり、深刻な顔で話し込んでいた。
何が、あった?
学園内のざわつきに耳を澄まし、情報を集め、必要なら将隆に報告しなければならない。
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